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版画集 平和を祈る 合掌

小崎 侃 著



・定価 1,529 円 (本体1,456円+税)
・B5判
・ISBN4-394-90146-4

松尾あつゆき著「原爆句抄」を小崎侃が木版画で表現。

以下本書あとがきより:
出会い

 長崎に住み、風土と歴史に執着し続ける私にとって、原爆と平和はどうしても避けて通れぬ大きなテーマである。私なりに崩壊された都市を心に描きながら原爆シリーズの作品を試みてきた。描けば描くほど原爆の悲惨さ空虚さを味わったが、版木に向かい合うことで長崎で仕事をする意味を改めて想った。

 そんな折り、一冊の本と出会った。松尾あつゆき著「原爆句抄」である。ページをめくると僕はとめどなく涙がこぼれて感動した。この本は、長崎で英語教師をしておられた松尾先生の教え子たちが浄財を出し合って、昭和四十七年に出版したものだという。先生は、八月九日、長崎に原爆が落ちたことにより奥さんと子ども三人を亡くされた方である。その日から自由律の句で原爆に対する叫びを記されいる。激しい慟哭が句となっており、生々しい現実が映しだされている。先生はもともと萩原井泉水が主宰する「層雲」の同人で自由律の句を作られていた。同人には漂白の俳人種田山頭火がおり、知己を結ばれていた。昭和七年、山頭火が長崎を初めて訪ねたときには、案内し、句会を開いている。そのころのあつゆき氏の作風は自然をあるがままに受け入れおだやかな人柄そのものであった。

 ところが、原爆によって妻子を奪われたことから、その句の世界は変わった。句集が出版された時、師の萩原井泉水は序文に次のように書いている。

「その時の敦之(あつゆき)の気持ちは涙も涸れてしまったのちに魂からしみ出る涙であり、嘆息する息もとまったのちの嘆きの息である。言葉として人に語る言葉ではなく、己が己に言い含めるほかはなき言葉である」

 また、長崎放送が昭和四十五年に芸術祭参加作品としたラジオドキュメンタリー「子のゆきし日の暑さ」では、亡き子との対話から原爆句が生まれでていることがよくわかる。絶えず亡き人々のことを思い、人間の平和への祈りを希求する姿に私は心が震えた。

 先生は、その後、原爆のことを一切忘れ去ろうと、信州に居を移し、数年の間暮らされた。以前のように自然の情景だけの句作に没頭されたようである。しかし、先生は再び長崎に戻られた。長崎にいると、亡き子が我が胸の中に移り住んでいることを感じると言われている。そうして終生亡き子への祈りに向かわれていく。

 私は、何としてもこの句集を木版画で表現したいと思い、全二百句をデッサンし、昭和五十八年(1983)に三十点の木版画として発表した。その後、四年かけて全二百点の版画を彫り、「合掌」として完成させた。

 私は、この句集に、日本人の心の中にある祈りの姿を、手を合わせている地蔵に託して表現した。 極限の体験から絞りだされた言葉と地蔵にさまよう衆生の苦しみを救う地蔵によって一つの世界が表現できたらと念ずるように版木に向かった。

 平成七年 春


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Updated November 11, 2005